第4章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・後編】
アキはタクシーを拾い、先にルルのマンションの前へ向かってもらうよう、ドライバーに告げた。
窓の外をボンヤリと見つめていたルルが、不意にポツリと言った。
『……例の件、もしかしたら手がかりがつかめるかも知れないんです…』
その言葉に、アキは思わず身を乗り出した。
彼女が言う"例の件"とは、銃の悪魔に関係すること以外になかった。
『…アキ先輩だからお話ししましたが…これ以上のことは、もう少し待ってもらえませんか…』
窓の外に視線を向けたまま、ルルは静かに言う。
彼女なりの考えがあってのことだろうと察したアキは、素直に受け入れるしかなかった。
「…分かった」
『……すみません。確信が持てる手がかりを掴んだら、必ず1番に先輩に報告します。…その時は…力を貸してください…』
「ああ。どんな相手だろうと…俺はお前と共に戦う」
『…ありがとうございます』
「礼なんていい。ただ…」
言葉を切ったアキの方へ、ルルが視線を移す。
「…くれぐれも、無茶はするなよ」
真剣な表情でそう言ったアキを安心させるように、ルルは微笑んで頷いた。
『…良かったら、ウチで飲み直しませんか?』
誘われるまま、アキはルルと一緒にタクシーを降りた。
初めて訪れた彼女の部屋は、必要最低限の家財道具だけがポツポツと置かれていて、ひどく殺風景な印象を受けた。
『…ソファを残しておいて良かったです。…まさかアキ先輩がウチに来るなんて思ってなかったので…』
ロックグラスふたつとキッチンのカウンターの上にあったウイスキーのボトルを手にしながら、ルルは困ったように笑う。
「……お前…」
ルルは言葉を失ってしまったアキをソファへ座らせ、自分も隣に腰をおろした。
『…近々異動の命令が出るみたいで…身軽にしておくよう、マキマさんに言われたんです。…新しい配属先はまだ聞かされていませんが…』
「そんな…どうして…」
無意味だと思っていても、口をついてしまう。
異動の理由など教えてくれるような職場でないことは分かりきっていた。