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君の隣で眠らせて【チェンソーマン短編集】

第4章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・後編】



『昔、3人で来た時と…全然変わってないですね』
「…そうだな」
『あの時は大変でしたね。…姫野先輩がベロベロになっちゃって、タクシーでマンションまで送って…そこからまた飲み直して…』
「…フッ……アノ人は飲むと決めた時はいつもああだから…」
『クスクス……結局、アキ先輩まで潰れちゃって…3人で姫野先輩の家のベッドでギュウギュウになりながら寝たんですよね。……楽しかったな…』

いまは亡き姫野の思い出話を語るルルの瞳が、じんわりと潤んだ。


『…あれからも来てたんですか?この店』
「ああ。たまに…ひとりになりたい時なんかにな…」
『…アキ先輩の家、いま賑やかですもんね』

そう言って笑うルルの頬には、やつれた影がさしている。

「…お前も、たまには寄れよ。…息抜きできる場所も必要だ…』
『はい。ありがとうございます』

笑顔で頷いたルルに、アキは核心を切り出した。

「……なぁ。ここなら、邪魔が入ることはないだろ」
『?』
「…何でもひとりで抱え込まず…俺に話してくれないか?力になりたいんだ」

真剣なまなざしで見つめられ、ルルは一瞬固まってしまった。

『…………ハァ……先輩には…やっぱり隠し事はできませんね…』

ため息を吐いて目を逸らした彼女の顔を心配そうに覗き込みながら、アキは静かに次の言葉を待った。

『……すみません。…今は、まだ話せません』

ルルは苦しげな表情でそう言った。

「…そうか……分かった。…無理はしなくていい。焦らせて悪かったな」
『いえ、…いつも気にかけてくれて、ありがとうございます』

俯いたまま礼を言うルルの、グラスを持つ手に力がこもる。

『………あのテロ事件の後……私、ずっと自分を責めてたんです。…みんなが命がけで戦ってる時……何も知らずに、ひとりだけ安全な場所にいたこと』
「っ…それは、違うだろ。…お前はたまたま仕事で京都に行ってただけで…責任を感じるようなことは…」
『そうでしょうか』

アキの言葉を遮って、ルルは独り言のように言った。

『…私は、本当にたまたま…京都に居たんでしょうか』
「……どういう意味だ」

その問いに、ただ首を横に振る
それからはあまり会話もないまま、グラスのウイスキーを飲み干して、2人はバーを後にした。


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