第3章 初めてのキスは…【デンジ夢・後編】
ルルはそんな風にウワサを否定した。
けれど、デンジはまだ少し引っかかっていた。
「…で?…ぶっちゃけ、どうなんだよ」
『どうって、何が?』
「だからよぉ…短い間でもアイツと一緒に住んでたんだろ?…何も無かったんか?」
『…あぁ、そういう話ね…』
ルルは昔を思い出すように少しだけ間を置いてから、キッパリと言った。
『無かったよ。なーんにも』
カップの底に残ったコーヒーを見つめながらポツリと呟く
『…だって…先輩が好きなのは、マキマさんだったから…』
ルルのその言葉に、デンジは眉をしかめた。
「アイツ、そんな前からマキマさんに惚れてたんかよ」
『デンジ君も知ってたんだ…』
「あぁ。初めて一緒にパトロール出た日に、そのことで殴り合いよォ」
『…そっかぁ。2人はライバルなんだね』
ルルはそう言うと、少し寂しそうに笑った
『あの時、アキ先輩がマキマさんのことを好きだって私に教えてくれたのは…姫野先輩だったんだ。…それ聞いたら、何か…いくら居候だからって、女の私が一人暮らしの先輩の家にお世話になるのは申し訳ないなって思うようになっちゃって…それで、私はあの部屋を出たの』
「…ふーん」
『最初のうちは、大音量の目覚まし時計をいくつも使ってやっと起きてたけど…今ではひとつで大丈夫になったんだよ。すごくない?…ねぇ、デンジ君は朝すんなり起きられる方?…』
この話はもう終わりだというように、ルルがさり気なく話題を変えたので、デンジもそれ以上の追求はしなかった。
新人デビルハンターとその教育係という関係だったとしても、短期間でも一緒に暮らしていたという過去があったのだとしたら、どうして早川アキとルルは普段、挨拶程度しか会話をしないのだろう。
昨日の食事会の時も離れた席に座って、全く言葉を交わしてはいなかった。
だからこそデンジは、ふたりが同棲していたというウワサ話を耳にした時に何とも言えない違和感を感じたのだった。
とりあえず、早川とルルとの間に何もなかったと彼女の口から聞けただけで、デンジは満足することにした。