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君の隣で眠らせて【チェンソーマン短編集】

第2章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・前編】



歩きながら、アキは先程の姫野との会話を思い出していた。

デビルハンターという仕事に着いたことに後悔はないけれど、いつ死んでしまうかも分からない環境に身を置いていることは確かだった。
朝まで元気だった同僚が、夕方には血溜まりの中に倒れているのを見たことも、もう何度か経験してきた。

《後悔の無いように生きたい》という姫野の言葉は、アキにも痛いほどよく理解できた。

「……」

アキは黙ったまま隣を盗み見る。

『食べ過ぎた』と独り言を言って、お腹をさすりながら歩いているルル。
真面目で仕事熱心なくせに朝が極端に弱くて、呆れるほどに涙もろくて怖がりで、そのくせ無鉄砲。ズボラなところがある割に料理上手で、普段は手のかかる子供みたいなのに、時折ドキッとするような女の顔を覗かせる。
そんな彼女のことを、アキはただの同僚や同居人以上の気持ちで思い始めていた。


ルルの事が大切だった。

死なないで欲しいと思った。

ずっと側に居て欲しいと、思ってしまった…



胸が締め付けられる感覚に襲われたアキの手を、ふいにルルが優しく握る。

『見てください先輩、星がすごく綺麗ですよ』

明るい声につられて顔を上げると、よく晴れた夜空に星が煌めいていた。

「…ああ…そうだな…」

星空を見上げたのなんていつ以来だろうと、アキは思う。
その時、ルルがポツリと言った。

『私…もっともっと強くなりますね。…アキ先輩に守ってもらわなくても、大丈夫なくらいに…』

昼間の戦いの事を言っているのだろうと思った。
狐を呼ぶ為に腕の皮膚を差し出したアキを、泣きそうな顔で見ていたルル。
そんな彼女の決意に満ちた横顔に、例えようのない恐怖を感じた。

「…っ…」

足を止めて俯くアキ。
身体の震えをおさえるように、繋いだ手に力を込める。

『先輩…?』


[ 殺された家族の仇である銃の悪魔を倒す ]という、自分と同じ目標を持って必死に努力してきたルルに、デビルハンターを辞めろとは言えなかった。

復讐に生きないで欲しいとも頼めない。
強大な悪魔との戦いを前にして、必ず守ってやると誓う事もできない。

アキは、自分の無力さに打ちひしがれていた。

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