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君の隣で眠らせて【チェンソーマン短編集】

第2章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・前編】



「ブフッ!?」

飲みかけていたビールを吹き出しそうになるアキ。

「な、何言ってんスか…」

姫野はアキの反応に笑いながら言った。

「えー。だって2人は一緒に住んでるんでしょぉ?」
「…いや、それはあくまでも仕事上、頼まれたからで…」

アキが困惑しながら答えると、酔っ払っているらしい姫野はさらに食い下がる。

「きっかけはそうかもだけどさぁ〜…あーんな可愛いオンナノコと一緒に暮らして、アキ君のアキ君は何ともならないの?」
「ひ、姫野先輩と一緒にしないでください」

ピシャリと言ってはみたが、アキは内心動揺していた。

「…ふぅ〜ん。…アキ君、相変わらず意気地なしなんだね…」

姫野はポツリとそう言った。

かつてバディを組んでいたアキと姫野。
先輩である姫野は、まだ若かったアキを仕事終わりによく家飲みに誘っては、酔っ払って身体の関係を求めてきた。
酒が入るとキス魔に豹変する姫野に唇を奪われることはあったけれど、アキは絶対に一線を越えることはなかった。
そのまま彼女の家に泊まり、同じベッドで眠ったことも何度もあったが、裸同然の姿で迫られても手を出さなかった。

昔のことを思い出し、思わずため息をつくアキ。

「はぁ……アンタの頭の中は、そういう事しかないんですか…」
「だってさぁ〜。ウチら、明日死ぬかも分かんないような仕事してんだよ?…後悔のないように生きたいじゃん」
「……」

姫野のその言葉にアキはハッとしたが、それ以上は何も言わずにタバコの煙を深く吸った。



中華料理店を出たところで、アキとルルは帰る方向の違う姫野と別れた。
夜の繁華街を並んで歩く。

『…ぁ、そこの大通りで、タクシー捕まえてきます!』

駆け出そうとしたルルを、アキは思わず呼び止めた。

「待て」
『…?』
「………少し…歩かないか?」

言った後で自分の言動に戸惑っているアキに、ルルは笑顔で同意した。

『…はい♪夜風が心地良いですもんね』

そして、2人は肩を並べてゆっくりと歩いた。

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