第2章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・前編】
9時半に家を出る約束をしていたアキは痺れを切らしてルルの部屋をノックした。
返事がないのでドアを開け、布団を頭まで被ってまだ眠っている彼女に声をかける。
「おい、起きろ。もう9時過ぎたぞ」
イライラを抑えつつカーテンを勢いよく開けるアキ。
「…ったく」
掛け布団を引っ張ると、しがみついて抵抗する。
『んー…』
「いい加減にしろ」
力ずくで布団を引き剥がすと、ルルはノソノソと身体を起こした。
『ふぁ……せんぱぃ……おはよござぃます』
「…10時からの稽古、遅刻しちまうぞ。急げよ」
『ふぁい…』
ルルはバランスを崩してベッドから転がるように降りた。
「危ねっ、大丈夫かよ…」
『…すいません、らいじょぶれす…』
ヨロヨロと立ち上がり洗面所へ歩いていく。
アキは呆れたような顔をして後ろからついていき、鏡の前で寝癖だらけの髪を整えてやった。
「ほら、ちゃんと顔洗えよ」
ルルは言われるまま顔を洗う。
「目ぇ覚めたか?さっさと着替えてメシ食え…」
『はい…』
言われた通りトレーニングウェアに着替えて食卓につき、アキの用意した朝食を食べているルルをふと見ると、Tシャツが後ろ前になっていた。
「おい、服逆だぞ。…どんだけ寝ぼけてんだよお前…」
心底呆れながらも、アキは気になってつい世話を焼いてしまう。
極度に朝が弱いらしいルルは、朝食を食べ終え、歯を磨く頃にやっと目が覚めてきたようだった。
『先輩、支度できました』
「よし。急ぐぞ」
マンションを出て道場へ向かいながら
「お前、ホント朝弱いんだな…毎朝起こしてやんなきゃダメか?」
『…こればっかりは、本っ当にすみません……あの、もう蹴っ飛ばしてもいいんで…何とかお願いできませんか…』
「はぁ…お前なぁ……そんなんでこの先どうするんだ?ずっとこのままいくつもりか?」
『いえ!あの、出来るだけ自分でも努力はしますので…その…長い目で見守っていただけると…』
「…仕方ねぇな……その代わり、急いでる時はマジで蹴っ飛ばすぞ」
『はい!よろしくお願いします』
アキはルルの額を軽く小突いた。
「まったく、手のかかる居候だ…」