第2章 夜明けがくる前に…【早川アキ夢・前編】
部屋の中へ戻り、テーブルを拭くためのふきんを取りに台所へ行くと、ルルは皿についた泡を流しているところだった。
『先輩も、明日は非番ですよね?』
「あぁ。お前はどっか出かけたりすんのか?」
『岸辺先生のところへ剣術の特訓に行く予定です』
「そうか…でも、腕の方は大丈夫なのか?」
『はい。幸い左手でしたし、激しい動きをしなければ…多分』
「…ったく。その根性は認めるけど、無理だけはするなよ」
『はい!』
アキはテーブルをふきんで拭くと、冷蔵庫から2本目のビールを取り出してテレビをつけた。
「…明日、俺も行っていいか?これからバディとして任務につくなら、お前の戦い方をよく見ておきたいんだ。自分の練習もしたいし…」
『もちろんです!先生とは、10時に道場で約束してます』
「分かった」
アキはリモコンをポチポチと押してザッピングする。
時間帯のせいもあって、どの局も気が滅入るようなニュース番組ばかり放送していた。
「サブスクで映画でもみるか?」
『いいですね、映画♪』
ふたりはサブスクに上がったばかりのアクションものの洋画を観ることにした。
飲み物とクッションを用意して部屋の電気を消し、並んで映画を見始める。途中、感動させるシーンがあり、鼻をすする音がしたのでアキがチラリと隣を見ると、予想以上にルルがガチ泣きしていた。
「……」
そっとティシュボックスを差し出すアキ。
『…っ…ずびばぜんっ』
ルルはティッシュを数枚取ると、グシュグシュと目元を拭った。
結局、映画が終わるまでにルルは5回も泣いていた。
エンドロールを見ながら鼻をかむ姿に苦笑いして、アキは彼女の頭にポンと手を置いた。
「お前、泣きすぎだろ…」
『…ぶぇ…だっでぇ〜』
感動シーンを思い出し、更に涙を溢れさせるルル。
「ほら、もう泣くなって。目ぇ腫れちまうぞ…」
アキは濡れた頬を親指で拭ってやった。
「笑える所もあったろ?最後なんかめちゃくちゃハッピーエンドだったじゃねーか」
『…グスッ……はい…最後幸せで良かったです』