第54章 伊黒の抱擁 ― 蛇柱の秘めた慈愛
「何故、それほどまでに自分を責める。
……何があったのか、話してみろ。俺になら、毒を吐くようにぶちまけても構わない」
落ち着きを取り戻した私は、ポツリポツリと、胸の内を明かした。
自分がどれほど卑怯な人間だと感じているか、誰かを選ぶことで誰かを傷つけるのが怖いということ……。
伊黒さんは黙って私の話を聞き終えると、少しだけ目元を和らげ、深くため息をついた。
「……お前らしい悩みだな。だが、お前が自分を不誠実だと責めるのは、それだけ全員の想いを真剣に受け止めている証拠だ。いい加減な人間なら、とっくに複数の男を適当にあしらって楽しんでいるだろう」
伊黒さんは、私の肩に置いた手にぐっと力を込めました。
「いいか、。他の奴らがどうあれ、俺の想いは変わらない。お前がどれだけ悩み、迷おうとも、俺はお前と夫婦になることを望んでいる。来世などという不確かなものではなく、今、この生でお前を幸せにしたい」
彼は私の目をじっと見つめ、包帯を少しずらして、隠されていた口元で私の額に誓いの口づけを落としました。
「不誠実などと言わせない。お前を誰よりも執念深く愛し、守り抜く男がここにいる。……お前が答えを出すまで、俺はずっと、蛇のようにしつこくお前の隣に居座ってやるからな」
伊黒さんの不器用で、けれど一切の濁りがない言葉。
一人で抱えていた罪悪感が、彼の重厚な愛によって少しずつ、光の中に溶け出していくのを感じた気がしたのであった。
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