第1章 【プロローグ】邂逅、そして約束
「……っ!」
目の前の光景に、私は息を呑んだ。 冷や汗が背中を伝う。今、自分の視界に映っているものが現実なのか、それとも質の悪い夢なのか、判断がつかない。
「さあ、ゆっくりでいいから話してごらん」
鼓膜を震わせたのは、どこまでも澄んだ、慈愛に満ちた声だった。
「えっと……」
頭の中は、まるで激しい渦に巻き込まれたかのように混乱していた。(これは夢? それとも……) 必死に思考を繋ぎ合わせ、現状を整理しようと試みる。
「はい、すみません……。私自身、まだ整理が追いついていなくて……」
「ほう?」
目の前に座しているのは、私が愛してやまない物語『鬼滅の刃』の登場人物――「お館様」こと産屋敷耀哉、その人だった。 鬼殺隊の頂点に立ち、剣士たちから親のように慕われる御方。 どうやら私は、気づかぬうちにこの屋敷で意識を失っていたらしい。
私は深く、深く深呼吸をして、乱れる動悸を鎮めた。そして、意を決してその場に膝を突き、真剣な眼差しを向ける。
「取り乱してしまい、申し訳ございませんでした。産屋敷耀哉様。……そして、不躾にお屋敷へ入り込んでしまったこと、心よりお詫び申し上げます」
謝罪の言葉を、一言ずつ噛み締めるように告げた。 お館様は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにいつもの穏やかで冷静な表情に戻る。
「……さっきのことは気にしなくて構わないよ。それと、私のことを知っているのかい?」
流石、と言うほかなかった。この異常事態にあって、この冷静さ。 (やっぱり、ここは私の知っている世界なんだ。そして、この人は信頼できる) 直感にも似た確信が、私を突き動かす。
「はい。私は貴方が率いる鬼殺隊のこと、そして……この世界がどのような結末を辿るのかも、存じております」
「……まるで、未来から来たかのような言い方だね」
「……すみません。詳しいことは、今はまだお話しできません。私自身にも分からないことが多すぎて。……ですが、これだけは断言できます。私は貴方たちの力になれる。宿敵である、鬼舞辻󠄀無惨を倒すための情報を、私は持っているのです」
お館様の瞳が、射抜くような鋭さを帯びた。それは、私という存在を、魂ごと見極めようとするかのような眼光だった。
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