第4章 還る月
赤く染まる月が輝き始めた頃、家の前まで送ってくれた飛雄くんの手の温度が離れるのを待っていた。本当は離れて欲しくはないけど、いつまでも家の前でこうしてるわけにはいかない。
「ねぇ、なにしてんの」
突然聞こえた低い声に驚き振り向く。190cmの男がこちらを睨むように見ていた。でも、気付けば青みかがった黒い瞳が目の前で光っていた。ふにっと触れた柔らかい唇が私の下唇を食んで離れていく。
「こいつを泣かせたくねぇなら、お前は何もすんな」
蛍のことは見れなかった。だけど、静かな怒りを感じて肩を縮こませる。焦りでバクバクと心臓が音を立てる。どうして、浮気をした気分になっているのだろう。
「なに?揺が欲しいの?……王様にあげるわけないじゃ〜ん」
「っ!いたっ…蛍、痛い……ねぇ…」
いきなり腕を引かれて、無理やり飛雄くんから離れさせられた。蛍の指がギリギリと食い込む。相当、機嫌が悪いようだ。
「お前のもんじゃねぇだろ。自由にさせてやれ」
飛雄くんは怒りも焦りも出さず、ただ私だけを想うように静かな声を発し、帰っていった。今、行かないで…蛍の手を振りほどいて追いかけたいのに、出来ない苦しさが私の心を蝕んでいく。