【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第4章 The Line Between Us
仁美の視界は涙で滲み、研磨の顔の輪郭さえぼやけているのに、唇の熱だけは、やけに鮮明だった。
彼は一度も視線を逸らさず、ただ彼女を飲み込むようにキスを続けた。
どれくらい経ったのだろう–––––。
そのとき、裏校舎にあるスピーカーから放送が流れた。
『–––後夜祭、まもなくスタートです–––』
校庭に響く音楽とざわめき。
スピーカーの向こうでは、ダンスが始まったのが分かった。
誰かの笑い声と拍手の音。
現実の世界が、遠い場所で動き出す。
でも、2人の時間は止まっていた。
外の世界なんて関係ない。
研磨は一瞬も離れようとしなかったし、仁美もその腕を掴んだまま離さなかった。
––––
–––––
––––––
その頃、校庭では黒尾が仁美と研磨を探していた。
人混みをかき分け、ステージの裏、教室、渡り廊下。
どこにもいない。
後夜祭が始まっても、2人の姿は現れなかった。
黒尾は空を見上げ、小さく息を吐く。
–––––そのとき、研磨と仁美は体育倉庫の中。
世界から切り離されたような空間で、ただ、息苦しいほどのキスを続けていた。