【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第8章 Unholy Devotion
『……それは無理。旦那とは別れられないの。』
いつも通りの答え。
いくら話し合おうが、なにも変わらない言葉だった。
黒尾の指先が震える。
怒りとも悲しみとも、言い訳ともつかない感情が胸に溜まる。
「じゃあ……俺ができることなんて、ねぇだろ。」
それは本心だった。
けれどそれは同時に、逃げたい男の言葉でもある。
電話の向こうで、彼女が小さく笑う。
『でも、鉄朗くんがいてくれるから……生きていける。』
その言葉が、鎖みたいに胸に絡みつく。
助けたいわけじゃない。
けど見捨てる勇気もない。
ただ、離れられなかった。
スマホを置いて、暗い天井を見上げる。
放課後の廊下。
夕陽が差し込む窓際で、仁美が黒尾に駆け寄った。
「クロ、元気ない?」
焦ったような、小さな声が心配がそうに黒尾の胸に触れる。
一瞬、黒尾は息を呑む。
胸の奥のざらつきが、ふっと薄まるのを感じた。
(……こういうところ、俺本当に最悪だな。)