【ハイキュー!!】矢印の先に、俺(私)はいない【R指定】
第8章 Unholy Devotion
黒尾はその腕に、自分の指先を伸ばしかけて——
拳を握るように、引っ込めた。
「……帰れます?」
「帰れるよ。でも——」
まどかが黒尾の胸にそっと額を寄せる。
「少しだけ……ここにいて。」
黒尾は動けなかった。
夜の公園の暗さの中で、足はしっかり地面にあったはずなのに——。
心はどこかで踏み外していた。
この夜のことを、後悔するのはずっと先だ。
ただ、一瞬体が触れただけ–––。
それだけで全てが崩れるとは思わなかった。
今まで大切にしてきた仁美への気持ちが。
彼女と会う頻度は減った。
わざと、そうした。
研磨にされた牽制はその通りで、これ以上関係を深めたら、迷惑をかけるのは自分だけじゃない。
離れていれば、いつか切れる相手だと思った。
けれど現実は違った。
会わないかわりに、画面の向こうに心が絡みついていった。
授業中も、練習中も、ふとした瞬間にポケットの重さを感じる。
既読がつく前の緊張。
既読がついた後の、心臓の揺れ。