第1章 君の影
――重たい瞼が、ゆっくりと開いた。
目に飛び込んできたのは見慣れた天井の木目でも、彼の住む安アパートの薄汚れた壁紙でもなかった。
白く無機質な天井。
蛍光灯はまだ点いていないが、窓から差し込む朝の光が部屋を淡く照らしている。
鼻をくすぐるのは、石鹸とわずかな香水の混じった匂い。
――こんな匂いのする部屋に、俺は寝た覚えがねぇ。
伏黒甚爾は眉をひそめ、上体を起こした。
シーツはやたらと柔らかく、身体が沈み込む感覚は慣れない。
寝巻き代わりに着ているのは、真っ白なTシャツ。
だが、その袖から覗く腕を見て甚爾は息を呑んだ。
日焼けも薄く無駄な肉が一切ない、すらりと伸びた腕。
自分のごつごつとした筋肉質な腕ではない。