第7章 メイドカフェ ※
高専に帰るはずだった。
それなのに、前を歩く伏黒はどこか違う所に向かっている気がする。ていうかメイド服なのが恥ずかしい。早くと急かすからそのままの格好で出てきてしまった。
「伏黒くん、こっち駅じゃないよね?」
「…そうだな」
裏通りに入ってしばらく歩いた。仄暗い中にホテルが立ち並び、ぽつりぽつりと控えめなイルミネーションが彩る通り。心なしかカップルが多いような。
彼は一軒のホテルの前で立ち止まると、様子を伺いながら中に入っていく。玄関ホールで部屋の番号を押してエレベーターに乗り込んだ。
鈴は何が起こっているかよくわからず、ただ伏黒の後をついていく。でも何かおかしい。
(ちょっと待って…、ここラブホなんじゃ…?)
非常にまずいことに気がついた。もしかしてメイド喫茶でバイトしてることを言わなかったのを怒ってる?
私がいけないけど、あくまで任務であって、もう解決した以上バイトを続けることもない。それをちゃんと話さないと。
「伏黒くん、あの、バイトのことはね…」
その時エレベーターが止まり、早足で歩く伏黒を小走りに追いかける。
「五条先生に頼まれたんだよ。ちゃんとした任務で本当にバイトしてるわけじゃなかったから…」
聞こえているのかいないのか。鈴の話に耳も傾けず伏黒は部屋のドアを開けた。
「だからね…」
「だから?」
バタンとドアは閉まる。やっと振り向いた伏黒は呪霊に向けるような鋭い瞳を鈴に向けた。体感氷点下の声と表情が怖い。
「だ、だから、そんなに怒らないで…」
「無理だな」
その言葉は鈴を絶望の淵に追い込んだ。伏黒に嫌われたらもう生きていけない。
「伏黒くん、嫌いにならないで…。謝るから…」
服の裾を引っ張りながら縋りつく半泣きの鈴を突き放すのはまあまあ気合いがいるが、簡単に許すわけにいかなかった。原因はあの写真だ。
フーッと大きく息を吐くと鈴の目の前に真希から送ってもらった写真をかざした。
「……俺にメイド服見せねぇのに、真希さんや狗巻先輩にはなんで写真撮らせてんの?」
「え、真希さんと棘先輩、お店に来てないよ?」
「じゃあこの写真なんだよ?」
鈴はキョトンとした顔で画面をじっと見て首を傾げた。