第6章 香水
「もしもーし、……どーせ、そんなとこだと思ったわ。大騒ぎして大変だったのよ。
鈴、伏黒が迎えに来るって」
「え、やだよ……」
鈴がただをこねている間にノックの音が響く。抵抗虚しく真希の力強い腕に抱えられ、ドアの前に強制連行。
「さっさと引き取れ、恵。私たちは痴話喧嘩につき合う程、暇じゃないんだよ」
「お詫びはデパコスのリップでいいわよ」
ひらひら手を振る二人に見送られ、無情にバタンとドアは閉まる。うさぎみたいに真っ赤な目をした鈴の目からはさらに涙がこぼれ落ちそう。
(泣いてたのかよ……)
伏黒は彼女を半分引きずるようにして自分の部屋に戻った。
「浮気とかしてないから」
「うそッ……!」
「鈴、手出して」
おそるおそる手を差し出した鈴の手首に香水をシュッとひと拭きする。
「えっ?えっ?」
「この香水はおれが買ったんだよ。あと、ナンパされてたとかいうのは虎杖の勘違いだから。五条先生にアドレスのメモ、渡すよう頼まれただけ」
「だって、伏黒くん香水なんてつけたことないじゃん!どうして急に…」
「それはまあ色々…。鈴は嫌か?この香り」
「ううん、すごく好き。だから伏黒くんがこんないい香りの香水つけてる人と浮気してると思ったら悔しくて悲しくて……。よかったぁ……」
本当に安心した鈴はやっと笑った。
「おれがこの香水選んだのは、鈴似合うと思ったからだ。一緒に使えるから」
「でも私、美人で賢くもないし、料理は下手だし反転術式使えないけど…」
「一体、何の話だよ?」
伏黒は手首に香水をつけると、鈴と自分の首に擦りつけた。
首に手を回して抱きついた鈴は顔を伏黒の首筋に近づける。
大好きな彼の匂いと、香水の香りが絶妙にマッチしてとろけそう。
「大好き」
「おれも」