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彼らの手と、私の心

第13章 第12話 ― 名を知る夜 ―


ある休日、夕焼けが沈み始める頃、
私はまた、いつものバーに足を運んでいた。

扉を開けると、
そこにはいつも通り、
カウンターの中でシェイカーを振る
バーテンダーの彼がいる。

暖かな灯りに照らされた店内を見渡し、
カウンター席に腰を下ろすと、
彼が視線に気づいて、近づいてきた。

「いらっしゃいませ。本日はどうなさいますか?」

私はカシスオレンジを頼み、
緩やかなジャズに耳を傾けながら、
出来上がりを待つ。

やがて、
彼がグラスを置きながら言った。

「いつもご来店ありがとうございます。
どうぞ、ゆっくりしていってください」

お礼を伝えてから、
ずっと胸の奥に引っかかっていたことを、
思い切って口にする。

「あの……
お名前って、お聞きしても大丈夫ですか?」

一瞬だけ、
彼は驚いたように目を瞬かせて、
それから、穏やかに微笑んだ。

「北翔です。
北は東西南北の北、
翔くの翔」

「……良い名前ですね」

そう言うと、

「ありがとうございます」

とだけ答えて、
北翔さんは、またカウンターの奥へと戻っていった。

私は、オレンジ色のカクテルを眺めながら、
“北翔”という名前を、
心の中で、そっと転がしていた。
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