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❁✿✾ 依 依 恋 恋 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 依依恋恋 一話



『あやつは一度言い出したら聞かん。心得ておけ』
「肝に銘じておきます」

秀吉は幸と言うべきか、あるいは不幸と言うべきか、前世の記憶を持っていなかった。にも関わらず、何かと光秀へ口煩く説教をして来るのは、同じ大学に通っていたが故か、はたまた無意識の内に前世での繋がりを感じているからなのか。ともかく、かつて魔王の右腕と呼ばれていた男は現在、信長の下で人事及び編集長として、前世から引き継いだ人たらしの手腕を如何なく発揮していた。

秀吉が自分の担当になどなったら、それこそ小煩い小言の電話が毎日かかって来そうだ。やれやれと浅く嘆息しながら相槌を打つと、信長が珍しくも黙り込んだ。無駄を嫌う主君が沈黙するなど滅多になく、光秀が相手の名を唇へ乗せようとしたところで、機械越しに吐息混じりの短い笑いが聞こえて来る。

『此度はその心配もないだろうがな』

自己完結した物言いへ、その意図を問おうとした光秀の反応を待たず、信長は『万事抜かりなく励め』と短く告げて一方的に通話を切った。無機質な機械音が響く中、端末を耳元から離してディスプレイの電源を落とす。遮光カーテンが閉め切られた薄暗い部屋で一人、光秀がおもむろに立ち上がった。硝子トレーの上にある水色桔梗の簪へ指先を軽く触れさせると、薄く開いた唇から浅い吐息が無意識の内に溢れる。

「────……凪」

忘れもしない、忘れられる筈がない大切なその名は、早朝の静寂の中へ溶けるようにして消えていったのだった。

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