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❁✿✾ 依 依 恋 恋 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 依依恋恋 一話



「いつもながら随分とお早いご連絡ですね、信長様」
『貴様の事だ。既に起床していただろう』
「こちらの世は安穏とし過ぎている所為か、つい深く寝入ってしまうもので。……さて、御用件をお伺いしても?」
『相変わらず心にもない事を言う男だ』

電話先の相手は、五百年前にかつて主君と仰いだ人物だ。尚、信長自身も光秀同様に前世の記憶を持っており、こうして再びその下についているのも浅からぬ縁故という事なのだろう。現在、信長は天下統一出版と言う名の出版社の代表取締役社長を務めている。かつての主君が乱世の折とはまるで異なる職種へ就いた事は光秀自身も正直驚いたが、政(まつりごと)と商いは通じるところがある。そう思えば、種類はどうあれ経営側へ回っても、その手腕は存分に発揮されているのだろう。

『此度の新作に関する資料には目を通したか』
「はっ、私が神仏を信じていないと知りながら、日本神話の題材を任されるとは……信長様も御人が悪い」
『どの書き手へ任せるべきかと社内で軍議を開いた折、貴様の名を挙げる者が多かった。あの女の気を惹きそうなものでない事が不服か』
「いえ、優先すべきは社の利益ですので」

光秀は現世においては、信長が立ち上げた天下統一出版専属の作家だ。専属契約を結び、社外へ原稿の一切を持ち込まない事を条件に、かなり自由な執筆活動を許されている。だが、時折こうして社内で決まった企画内容を題材にした連載や書籍化を求められる事もあり、その内容が此度はたまたま日本神話をテーマにしたものだった、という訳だ。

電話先ですべてを見透かしたような主君の声が聞こえ、光秀が薄い瞼を伏せる。本心とも偽りとも言い切れないその返答の真意など、信長は看破しているのだろう。前世からの付き合いというのは、時に要らぬ部分まで心の奥を覗かれてしまう分、少々やり難いものがある。

『担当も今日から新しい者に変わる。話は秀吉から聞いているな』
「ええ、次に担当を泣かせたら自分が担当になると息巻いておりました。まったく、相変わらず女に甘い男です」

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