第3章 依依恋恋 三話
佐助は凪の同期であり、以前から何かと謙信とは面識があるらしい。元々は家康(理由は不明だが推しメンらしい)と同じ編集部の配属を希望していたのだが、謙信直々の指名で秘書へ任命されていたのは未だ記憶に新しい出来事である。
「ああ。佐助から安芸土産を楽しみにしていて欲しいとの言伝だ」
「安芸かあ、安芸といえば安芸風お好み焼きとか、牡蠣の土手鍋とか有名だよね。あともみじ饅頭!」
「朝から食い気があって元気だね、凪」
あまり西日ノ本方面には旅行の機会がなく、凪がテレビやネットで得た知識を思い浮かべて頬を緩めた。茶碗を傾けながらほんのりと微笑ましそうに目元を和らげた家康へ応えようとした刹那、デスクの上に置いてある端末が通知を受け取って小さく震える。
「あ、ちょっと失礼します」
一言断りを入れて端末を手に取り、通知を確認した。ロック画面では通知の詳細が表示されないように設定している為、ホーム画面を開いてメッセージアプリの右上に通知バッチがついているのを見て取る。そうしてアプリを確認すると、どきりと何故か鼓動が跳ねた。トーク画面一覧には両親や弟、あるいは友人、もしくは会社関係の者達の欄がずらりと並んでいる。その一番上にある白い狐のアイコンの横に、つい先日連絡先を交換したばかりの人物の名が表示されていた。
【おはよう。昨日大まかな設定を練った例の新作についてだが、ちょうどあらすじが書き上がったところだ。昨日の今日で済まないが、一度確認を頼む】
(明智先生……!!?ていうかプロット作り早い!!!?)
ぎょっとした凪が思わずディスプレイを前に固まる。プロットとはそもそも一晩で書き上がるものなのか。先日秀吉からも、光秀は原稿を上げる速度だけは優秀だと聞いていたが、その片鱗を目の当たりにして眸を丸くした。
「凪?」
「珍妙なものを前にした猫のような顔をして、どうした」
(兼続さんの例えは一体……!!!?)