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❁✿✾ 依 依 恋 恋 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第3章 依依恋恋 三話



「何って、昨日は断ったにも関わらず茶を煎れようとしたあいつが茶筒と急須を盛大に引っくり返して、それに驚いたあいつの飼い猫が墨の瓶を倒した所為で手書き原稿が真っ黒になって使い物にならなくなった上に、足の踏み場もない部屋中の書物の山が崩れて打ち合わせどころじゃなかった」
「た、大変だったんだ……」
「一晩で書き直すって意気込んでたけど、一応今日も後で様子は見に行くつもり」
「……何だかんだ言って、家康って面倒見いいよね」
「別に。妙に張り切られて、途中で倒れられても迷惑だから」

ふい、と顔を明後日の方向へ逸らした家康の様子に、凪がそっと忍び笑いをした。家康の担当作家、石田三成は昨年デビューしたての新進気鋭(しんしんきえい)な新人若手作家だ。デビュー作であるミステリー分野の小説が大ヒットを記録し、既に続刊の製作が決定している上、来夏にはテレビドラマ化も予定されている。今後、光秀に次ぐ天下統一出版社の看板作家になるだろうと期待値も高い彼は、少々天然という事で社内ではもっぱらの噂であった。凪はまだ実際に会った事はないが、家康の様子を見る限り、相当なのだろうなあとは予想出来る。

「さ、作家先生の体調管理も、私達編集者のお仕事の一環だもんね」
「あいつの場合、体調どころか生活管理をしなきゃいけない程度の酷さだけど」

(家康にここまで言わせるって、石田先生って一体どんな人なんだろう……?)

話だけ聞く限りでは、相当な興味を掻き立てられる人物である事に違いはない。さすがにそれを口にすると家康のまとう空気が更にぐっと下がりそうな気がする為、余計な事は言わないに限る。家康が入れてくれたカフェオレへ口をつけつつ、マウスを操作して昨夜の内に自宅で仕上げた報告書へ目を通していると、隣からふわりと藤の香りが漂って来た。

「兼続さん、おはようございます。この時間に出社なんて珍しいですね」
「おはよう。謙信様の出張のお見送りをしてからこちらへ向かった所為だろう」
「あ、なるほど。謙信様は何処に向かわれたんですか?」

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