第2章 依依恋恋 二話
会社ごとでも対応は異なるが、作家を担当する者は印刷所やカバーデザイン会社、各種書店などと連絡を取り合う事も多い。その為、プライベートとは分けた社用端末を支給される事が多いのだ。しかし、そもそも凪はまだ社用端末をもらっていないという。光秀としても、自身からの連絡を仕事と割り切られるのは少々不服だと思っていたところに、思わぬ幸運が舞い込んだという訳である。
(とはいえ、関係者各人へ私的な連絡先を教えるのは感心しない。秀吉にでも後で一報を入れておくとするか)
自分はさておき、という話だ。今後、自分の担当となった凪が様々な業界の者相手へ私的な番号を教える事にならないよう、秀吉に社用端末の支給を急がせようと考えた光秀が、素知らぬ顔で凪と連絡先を交換する。
「ありがとうございます、先生」
「礼を言われる程の事でもない」
「何かあったらいつでも連絡してくださいね。資料探しとか取材とか、何でもお手伝いします!」
「では、お前の力を借りたくなった時は連絡させてもらおうか」
「いつでもお待ちしてます」
これまで、誰一人として連絡先に登録して来なかった光秀の携帯端末。そこに【凪】の名が刻まれ、親指の腹で優しくその名をなぞる。担当として力になりたい、と意気込む彼女に対し、あまり野暮な事を言って信用を失くすのは得策ではないと考えた光秀が、口元へ微笑を乗せた。
その後、幾つか新作に関する話を交わし、凪が荷物を片付け始める。時刻はもうすぐ十七時、春先という事で大分この時間帯は明るくなって来たが、光秀の自宅は最寄りの駅から少々歩く。
「担当殿はこのまま一度社へ戻るのか?」
「いえ、今日は直帰していいと上司に言われているので、このまま帰ります」
「そうか、では行くとしよう」
「え!?行くって……!?」