第2章 依依恋恋 二話
「馬鹿にそんな語源が……!?」
正直、光秀自身は相変わらず神仏に関心も無ければ信仰心も皆無だが、乱世から脈々と培って来た知識は、今生では中々役に立つ事もある。日ノ本の神話は随分昔に捻じ曲げられた経緯があり、偽りが真のように、あるいは真が偽りのように伝わってしまっている事も多く存在していた。人は、これまで自らの中で常識として認識しているものを覆されそうになった時、保身が働いて他の意見を否定する生き物だ。果たして光秀が書き起こす話を何処まで受け入れるかは、読み手の柔軟さと知識量によるが、何も知らない無知でいるよりは、片隅に留めておくだけでも受け取り方は変わって来る事だろう。
「日ノ本の言語の中には、殊の外神代(かみよ)に関わるものも多い。よく【くず】という単語を耳にするだろう」
「はい……紙くずとか塵(ごみ)くずとかそういう意味のくず……ですよね?」
「ああ、今の世では良い印象で使われる事はほとんどないが、くずの語源は九頭龍(くずりゅう)から来ていると言われている」
「九頭龍って、凄いご利益のある神様の事でしたっけ。そんな……どうして貶(おとし)めるような言い方を……」
「さてな、民らへ九頭龍を崇められては都合の悪い者達でもいたんだろう。本題から逸れたが、此度はその三柱に瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)を加えた内容で話を作るとしよう」
「素敵だと思います……!ちょっと瓊瓊杵尊の存在が今から既に色んな意味で気になりますけど……凄く興味が湧いて来ました!」
元々日本神話は世代交代が中々に激しい話だ。その中でも比較的メインとなりやすい天照大御神(あまてらすおおみかみ)ならば、一度は誰しも耳にした事がある筈だ、という光秀の考えである。色恋を絡めるのならば、主人公に対し複数の男をあてがうのは鉄板だ。女神を取り合う男神(おがみ)達は、正反対の性質を持った者達にした方が物語も立ちやすくなる。