第2章 依依恋恋 二話
新人である凪がしっかりと担当という仕事をまっとう出来るか、それを報告で確かめるという事らしい。光秀としては凪と出会った以上、他の担当に変えられたところで筆を執る気にはならない。ここはひとつ、新人担当である彼女にも【人気作家、明智光秀】専属として成長してもらう事にしよう。そうと決まれば、と光秀が凪の申し出へ鷹揚に頷いてみせる。
「此度は色恋を含めた話である上、比較的若い世代を主な読者層として取り込む目的だ。ならば共感を得やすい年若い娘を主人公にする事としよう」
「女性主人公……!先生の作品では初めてですねっ」
「おや、俺の書物について知っているのか」
「当然ですよ!先生の作品は全部読破済みです」
「それは何より。これまで何作も書いて来た甲斐があったな」
(実際、これまでの書物はお前の為に書いたようなものだ)
凪が自身の書物へ目を通してくれていたという事実は、純粋にこれまでの努力が報われたような心地がして喜ばしい。さすがに自著をきっかけとして彼女が出版社へ入社したとまで自惚れはしないものの、きっかけの一助となっていたのなら嬉しい限りだ。
「主人公の娘は天照大御神(あまてらすおおみかみ)、それを取り巻く二柱の男神(おがみ)、建御名方(たけみなかた)と饒速日(にぎはやひ)を主軸とした話だ」
「天照大御神はかなり有名ですけど、他の二柱はあまり聞かない名前ですね……」
「日ノ本の神話の中では、存在を消されてしまっているようなものだからな。二柱の神は元々天照大御神に惚れていたが、そこへ瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が間に入った事で、男神(おがみ)達は争い合った。結果、相打ちとなった二柱を尻目に、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が天照大御神を奪ったというのが神話の大筋だ」
「えっ……それって凄く瓊瓊杵尊が小狡いような……」
「建御名方(たけみなかた)が鹿を、饒速日(にぎはやひ)が馬を眷属に従えて争った事から、焚き付けた瓊瓊杵尊がそれを目にして【馬鹿】と罵った話はそれなりに有名だと思うぞ」