第2章 依依恋恋 二話
「ならば、研鑽(けんさん)を積む良い機会だとでも捉えておく事だ。この先、他の作家を受け持つ事もあるだろう?」
「はい……!ありがとうございます、先生が良い作品を作れるよう精一杯お手伝いしますね!」
はにかむように笑った凪の物言いは謙虚で、前世での繋がり云々など無くとも一般的に見て好感が持てる。何処をどう見ても極端に緊張している風にしか見えなかった凪だが、光秀の声がけで多少は肩の力も抜けたのだろう。元来の明るい表情が垣間見えた事に、光秀の口元も自然と綻んだ。
(とはいえ、担当と作家という関係性でいる限り、お前が他の作家を知る機会はそうそうないだろうが)
ようやく会えた五百年越しの番だ。みすみす他の者へ渡すような真似はしない。当初はまったく別の目的だったが、専属という割りと融通の利く契約形態を取っておいて良かった。今や社の売上の半分以上を担っている光秀の発言権は中々に大きい。凪が他の作家を担当にする前に、彼女を自分の専属として抱え込んでしまおうと脳内で画策していると、盆に茶と茶菓子を乗せた光忠が応接室へ戻って来る。
「光秀様、どうぞ」
「ああ」
「お前も、せいぜい火傷には気を付けろ」
「え!?あ、ありがとうございます……?」
光秀の前へ湯呑茶碗を恭しい所作で置いた後、凪の前にも同じく茶碗を置いた。立ち上る湯気の雰囲気からして、そこまで火傷するようなものではないだろうに。五百年前と相も変わらず、不器用な従兄弟である。茶請けは如何にも凪が好みそうな、桃と生クリーム添えレアチーズのタルトだ。当然光秀の家にそんな菓子はない為(他の一般的な茶菓子はあった)、わざわざこの娘の好みに合わせて買いに走ったのだろう。
「さて、茶でも飲みながら早速次回作について打ち合わせするとしよう」
「そうですね……!えーと、こちらが追加の資料です」