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❁✿✾ 依 依 恋 恋 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 依依恋恋 一話



「ついて来い。光秀様の元へ案内する」
「あ、ありがとうございます……お邪魔します……」

著名な作家だが、随分と仰々しい呼び方をするものだ、とは一瞬思ったが、そもそも凪が勤める会社で上司の様呼びは珍しい事でもない。おそらくこの男は光秀の助手か何かだろう、そう見当をつけた凪が、案内されるままに屋敷内へ上がる。廊下を真っ直ぐに進んで左、閉ざされた襖の前で男が立ち止まると、室内に向かって声をかけた。

「光秀様、担当の者が参りました」
「ああ」

室内から短いながらもしっとりとした低音が届けられ、何故か凪の鼓動がどきりと跳ねる。何故だろう、まるでその声を何処かで聞いた事があるような、不可思議な感覚に陥りながら緊張して立っていると、男が襖を静かに開けた。刹那、嗅いだ事がない筈なのに、何故か懐かしく感じる冴え冴えとした薫物の香りが凪の鼻孔をくすぐり、瞬間的に虚を衝かれる。

(……なんだろう、これ。なんかちょっと、懐かしい……?)

既視感───所謂デジャヴとでも言うべきか、初めて嗅いだ気がしないそれへ固まっていると、室内が露わになる。おそらく応接間なのだろう、清潔感のある畳が敷き詰められた室内に、大きな座卓と座布団。床の間には桔梗の花が描かれた掛け軸と季節の花が飾られており、余計な家具類は一切ない一室の中に、男はいた。

白地に薄灰色の模様が描かれた着流しに、黒の羽織り。庭先が望める縁側方面の窓から射し込む日差しを浴びて、きらきらと輝く銀糸。涼やかで知的な切れ長の眸は金色で、あまりにも整い過ぎたその造形美は、確かに数多の女性を虜にして止まない筈だ。

(綺麗……)

思わず内心で素直な感想を漏らす彼女を他所に、座卓の前へ腰を下ろし、着物の両袖へ左右の腕を差し入れるような形で腕組みしていた男は、入口で立ち尽くす凪の姿を見て双眸を瞠った。互いに視線が縫い留められた状態で、男が薄い唇を微かに動かす。

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