第6章 薬の香りと、因縁
大広間に入った途端、香ばしいパンとベーコンの匂いが鼻をくすぐった。
石の天井の上で、陽光がゆらめくように照らされている。
午前中の緊張が、ふわっとほどけていくようだった。
チユはハーマイオニーと並んでグリフィンドールの席に腰を下ろす。
向かいでは、ハリーとロンがすでにベーコンを頬張り、皿に山盛りのマッシュポテトを追加している。
チユは笑いをこらえながら「2人とも、まるで1週間何も食べてないみたいだよ」とつぶやく。
そこへ、フレッドとジョージが、いつものいたずらっ子らしいキラキラした目でやってくる。
.2人の登場だけで、テーブルの空気が一気に華やぐ。
「おやおや、グリフィンドールの英雄たち!」
フレッドが大げさに手を広げて言う。
「スネイプの授業でまた一悶着あったって聞いたぞ!」
ジョージが隣でニヤリと笑う。
「で、スネイプがまた減点したんだろ?あいつの心臓に縮み薬でもかけたのかい?」
「いいや、スネイプの心臓は元々豆粒みたいに小さいんだ!」
ロンが即座に切り返し、口の中のベーコンを慌てて飲み込む。
「大正解!」
フレッドとジョージが同時に親指を立て、声を揃えて笑う。
ハーマイオニーが呆れたようにため息をつく。
「あなたたち、本当に……よくその口が回るわね」
「褒め言葉として受け取っとっておくよ、才女様」
フレッドが軽やかにウィンクすると、ジョージがチユの皿にそっとロールを1つ置いた。
「チユ、まだ食べてないだろ?熱いうちにどうぞ」
ジョージの声はいたずらっぽさを抑え、ほのかに優しい。
その横でフレッドがにやにやと肘で兄弟をつついた。
「おやおや、ジョージの紳士モードが発動したぞ〜。姫、要注意だ!こいつの優しさには裏があるからな!」
「うるさいぞ、兄弟」
ジョージが軽くフレッドを小突き、パンをちぎってチユに差し出す。
「ほら、チユ、こいつの戯言は無視して食べなよ」
チユはくすくす笑いながらパンを頬張る。バターの香りとふわっとした食感が、午前中の疲れを癒してくれる。
「ありがとう、ジョージ」
チユがそう言うと、ジョージは少し照れくさそうに視線をそらした。