第4章 闇を写す茶杯
「どっかに!絶対、近道があるはずだ……!」
7つ目の長い階段を上り切ったところで、ロンが息を切らしながら叫んだ。
見上げた先は、見知らぬ踊り場。
高い石壁に、ぽつんと大きな絵が掛けられているだけだった。
そこにはだだっ広い草原と、草を食む一頭の太った灰色の馬。
「こっちだと思うわ」
ハーマイオニーが右の通路をのぞき込む。
「そんなはずない!」ロンが反論した。
「あれは南だよ。窓から湖が見えるだろ!」
チユは2人の言い合いを横耳に、絵へ近づいた。
馬の周りの空気がかすかに揺らめく。
次の瞬間、がちゃがちゃと騒々しい音とともに、1人の小柄な騎士が画面に現れた。
「やあやあ!」
鎧をぎしぎし言わせながら、仔馬を追いかけ回している。
どうやら落馬したばかりらしく、膝には草がべったり。
チユがぽかんと口を開けた瞬間、その騎士はこちらを見つけて叫んだ。
「我が領地に踏み込む無礼者ども!もしや、このカドガン卿の落馬をあざ笑いに来たのか!?いざ、剣を抜けい!」
「ひゃっ!?」チユは反射的に一歩下がった。
「笑ってないです!ほんとに!」
カドガン卿は剣を振り回すが、あまりに長すぎて自分のバランスを崩し、草地にすっ転んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかけたのはハリーだったが、チユも心配になって身を乗り出した。
「下がれ、下賤のホラ吹きめ!」
しかし、卿は剣を杖代わりに立ち上がろうとして、見事に刃を地面に突き刺してしまう。
がんとして抜けず、ついに座り込んで兜を跳ね上げ、汗を拭った。
「……なんか、忙しい人だね」チユがぽそりとつぶやく。
「僕たち、北塔を探してるんです。道をご存じありませんか?」
ハリーが改めて尋ねると、カドガン卿の目が輝いた。
「探求であったか!」
先ほどの怒りは吹き飛び、胸を張って立ち上がる。
「我に続け!道は必ず見つかる!もし見つからねば、突撃あるのみ!」
「突撃はちょっと遠慮したいんですけど……」チユは弱々しく手を振った。
しかし卿は耳を貸さず、仔馬に乗ろうとしてまた失敗し、結局「徒歩あるのみ!」と宣言。
ガチャガチャと賑やかに走り出し、絵の端に消えた。