第7章 仮契 〜甘契〜
「ほな、これも着て!」
持っている服を手渡されるのかと思ったら、副隊長まで試着室に入ってきた。
「あ、あの…?」
「量多いから、手伝ったる」
肩を掴まれるとクルッと回されて、背中のファスナーを下げられる。脱がせたワンピースをハンガーに掛けて、これ着よかと着せられると、先程よりも少し丈が短い柔らかいワンピースだった。
本当にワンピース好きなんだな…と思いながら、私は着せ替え人形と化していた。着替えさせられる度に肌に息がかかって擽ったいのと、距離の近さに心臓は鳴り止まなかった。
「全部似合うなぁ…全部買ってまう?」
「そんな手持ちもないし、そんな着る機会もありません…」
普段、訓練漬けの私はあまりお金を使うことがなく、財布の中身は寂しいものだった。それに休みの日もあまり出掛けることはないので、こんなに買っても着る機会がない。
5着以上はある、副隊長が持ってきた服を、申し訳なさを滲ませながら見つめた。
「お金は気にせんでええ。機会がないなら作ったらええやん?出掛ける用がなくても、僕に見せて」
「え、えぇ……?」
副隊長が見せて欲しいの言うのなら、幾らでも見せる。見せたい。でも、そんな風に言われると…本当に勘違いしてしまいそうになるから、やめて欲しい。
嬉しさと困惑とドキドキが混ざって、上手く言葉に出来なかった。
「赤くなるとこあった?なんで真っ赤なん?」
ケラケラと笑う副隊長は、着てきたワンピースを着せて試着室を出ていく。
自分がどんだけ甘い言葉を言っているかわかっていないようだった。
私の視線は動く度に揺れる黒髪に目を奪われて、心は副隊長でいっぱいになっていた。
もっと落ち着ける場所で、早く2人きりになりたい…。
鏡に映る私の顔は彼の言う通り、真っ赤になっていた。