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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第6章 仮契 〜演契〜


「なぁ…他の女と遊んでええ?バレんようにするから」

「え……あ…」

嫌だ…でも止めることも出来ない。バレないようにすると言われてしまえば、私に止める手段はないのだ。私の気持ちがバレてはいけない。本物でもないから縛ることも出来ない。

俯いて下唇を噛んだ。温かいお湯に浸かっているはずなのに、身体の芯から冷えていく感覚がする。
俯いたまま微かに頷いた。

「こない近くにおるし、際どいことしとるんに…澪ちゃんさせてくれへんのやもん。我慢の限界や」

私が許したら誰のとこにも行かないのですか?私だけ求めてくれますか?

何も言うことは出来ずに水面を見つめていた。心臓が嫌な音を立てる。さっきまであんなにドキドキしてたのに…。

誰ともして欲しくない。そう思うが、私はしたくない。だって副隊長は私のことを見てくれないから…副隊長に気持ちはないから。だから、ずっと一線を引いている。明確にここからはダメだと、拒んでいる。

それがいけなかったのかな…少しでも彼の熱を求めてはいけなかった。

黙ったままの副隊長がいきなり吹き出すように鼻で笑った。

「嘘や、せぇへん。澪ちゃんが僕に流されるまで待っとる」

優しさが溢れるような声に思わず顔を上げた。ニコニコと笑い、柔らかい表情をする彼の真意は見えないが、彼がその言葉を嘘にすることはないだろう。副隊長が嘘をつかないことなど、とっくの昔に知っている。

「僕がゆっくり君を大人にしたるわ」

片方の口角を上げて、片目を開いた彼を見て、滲むような色気と余裕に、胸が締め付けられた。

私がこの瞳から逃れられることはないのだろう。
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