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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第5章 仮契 〜契初〜


目が覚めれば目の前に愛しい人がいる。安心を覚えると共に上がっていく脈拍。

「大好き…」

気持ちなど、とうに溢れてしまっている。私が流す涙が温かいものに変わるまで、この気持ちは誰にも聞かれないようにしまっておくね。

今日も気付かれないように隠れて唇を重ねる。私の秘密の行為は、昨日よりも確かに唇の感触が感じるものになっていた。

離れようとすると後頭部を押さえられて深いものに変わった。今、あなたの頭の中いるのは私じゃないとわかっている。それでも仕方がないのだと、自身に言い聞かせた。

唾液と共に絡む舌の熱が上がっていく。このまま溶け合って一つになれたらいいのに…。誰にも言えない気持ちばかりが膨れ上がっていく。

私の『大好き』は聞こえたのだろうか…どうか聞こえていませんように…この関係を壊したくはない。

口付けの気持ちよさに荒くなっていく息、込み上げてくる気持ちを押さえて、熱が全身に広がっていく。

「ほんまにアヤは、朝から……」

唇が離れていき、また"アヤ"と口にした彼は、私だと確認してまた唇を重ねた。私だと気付いても"アヤ"と重ねてキスをするのですか…?

聞きたい…誰なんですか。副隊長の想い人ですか?キスをすればこうなることをわかっていても、やめられない。

私はずっと、苦しい程にあなたを想っている。

唾液を残して離れていった唇は濡れて光っている。その様を唾液を飲み込みながら見つめていれば、柔らかく弧を描いた。

「澪ちゃん、僕とキスしたかったん?朝からそないな顔して…」

火照る頬を優しい指先が撫でる。きっと私は今、切なげな顔をしているだろう。あなたは熱に浮かされたものだと思っているんでしょう?違うの…私は私なの…。

「…おはよう、朝霧」

ずっと在り続けて欲しいと願う温もりが離れていく。

私はただの部下、偽装結婚をしているから本物の妻でもなんでもない。それなのに醜い嫉妬や独占欲が大きくなっていく。

残酷に現実へと戻っていく。

どうか、いつの日か…あなたの瞳に映る人が私でありますように…。
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