第2章 再会
"付き合おか?"そう声をかけたのは間違いやったかもしれへん。まだ幼さが強いその顔は瞳を濡らし、頬には流れた跡が残っている。
泣いとるんは見られたないやろ、僕かて見られたない。泣いている自分に軽く話しかけられたら、惨めに感じてしまうだろう。よう兄貴が泣いた僕を見て嘲笑っとった。
「…すまん」
訓練に明け暮れた日々、刀だけを握ってきた自分に泣いている女の子にかける言葉など、どんなに頭をフル回転させても探し出せるはずもない。
トレーニングルームを後にしようとしたが、弱々しく隊服の裾を引っ張られる感覚がし、軽く肩を震わせながらすぐ立ち止まる。僕におって欲しいのだろう、寂しいのかもしれへん。
何かあったんやろか…そう思い振り返ると、俯いたままで表情は見えない。けど、僕の裾を掴む小さな手が行かないでと震えていた。
真っ直ぐ向き合う形になるように身体を動かすと手は離れ、ぎゅっと拳を握りながら肩を震わせ、耐えているように見えるその姿からは、無情にも冷たい雫が零れていく。
きっと…その涙は温かいものやない。それだけはわかった。誰にも拭われることなく床でパチンッと弾けた涙が寂しそうだった。その涙の温度が床から伝わってくるようで、僕まで震えてしまいそう。
慰め方なんて知らへん、だが、このまま去ってしまうのはあまりにも冷たい男だろう。そっと頭を撫で柔らかく肌触りのいい髪の流れを辿り、ほんの少し濡れた冷たい毛先を柔らかく掴む。髪から手を離し、下から掬うように頬を撫でてから抱き寄せ、自身の腕の中に閉じ込めた。
「すまん、嫌やったら言うてや…」
彼女の涙で濡れた手が冷たいと震える。
幼いと言っても、僕よりも少し歳下なだけだろう。泣いている女の子を抱き締めるなんて…僕にはよくわからへん。間違っていないだろうかと自問自答を繰り返しながら、ただ、震える女の子を抱き締めた。
「……保科さん、ごめんなさい…」
「…その声……話聞こか?なんも知らん男なら話せるやろ?」
打ち合わせでここに来た時、僕に声をかけてくれた子の声だ。僕を"すごい"と"かっこいい"と言ってくれた、温かい声。その声が今、震えとる。僕はあの声を聞きたい。心を踊らせ弾むようなコロコロとした可愛らしいあの声。