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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第5章 仮契 〜契初〜


午前の訓練を終え、この後も副隊長にくっつかなければいけない為、汗でびしょびしょになった服を着替える。ボディシートでなるべくさらさらにし、匂いを抑えた。

乱れた髪を櫛で梳かし、前髪を整える。あの人の前では綺麗でいたい。

ふと、朝のことを思い出してしまい、彼の熱と何気なく吐いた残酷さが胸を締め付けた。

ロッカーを閉めて自身を抱き締めながらしゃがみ込む。額をロッカーに預けて、静かに零れていく雫が床で弾けた。

私は弱い…力も心も。

副隊長、"アヤ"とは誰ですか?その人とはあんな情熱的なキスをするのですか?あんな風に求めるのですか?私のこともあんな風に求めてくれますか?

ほら、また…答えのない問いばかり…。

隊員として強くなったら、副隊長は私を認めてくれるだろうか。ただの子供だった私を隊員として、女として…見て欲しい。

震える唇、震える肩、震える指先…全てあなたを想っているからなんです。この気持ちに気付いて欲しい、でも気付かないで欲しい。
私の心の中はいつも、矛盾ばかりだ。

心臓を握り潰され、胸の奥から湧き上がってくる気持ちが押し戻される。少しだけ、ほんの少しだけ…溜め込んだ気持ちを吐き出す暇をください。胸が張り裂けそうで息が詰まるんです。

あなたの熱も温かさも優しさも全て、この身体が記憶している。忘れることが出来ない程…。

「愛しとるよ」その言葉が本物であって欲しいと、どんなに願ったか…あなたは知らないでしょう?

自身を抱き締めた腕のまま拳を握り、ギリギリと音をたてる。その音さえ、嗚咽に掻き消された。ドクドクと鳴る鼓動と押し殺した声と共に漏れる苦しい呼吸音が耳に響く。

「うっ…副隊長……好きです…」

絞り出すような私のか細い声と嗚咽が静かなロッカールームに響き、床に零れる雫の音が虚しかった。
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