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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第5章 仮契 〜契初〜


肩に触れた手を取られてグイッと引き寄せられる。そのまま後頭部を持たれて唇が重なった。私がしたのとは違う、確実に触れて押し付けて、温度を伝えてくる。

唇の隙間に入り込んだ熱は私の舌を絡め取り、吐息が重なる。唾液が音をたてて、行為の濃厚さを強調させていた。

嬉しいはずなのに、私の内側は中心から冷えていった。私の名前を呼んで…私を求めて…そんな儚い願いすらも飲み込まれて消えていく。

彼の熱を受け止め続ける私の心の悲鳴は、誰にも届くことなく痛みを募らせていった。

私ではない誰かに与える熱とそれに篭った想い…この彼の熱は私のものじゃない。その事実が彼を受け止める私の心を不快にさせた。

糸を引いて離れていく舌は名残惜しいと追いかけるのに、心だけはどこまでも置き去りにされる。

「はぁ……あ、朝霧…?すまん、キス、嫌やった?」

自分が別の人の名前を呼んだことに気付いておきながら、キスのことだけを聞くあなたは…どこまでもずるい人。

軽く首を振った。

「ご飯、食べましょう?」

笑顔の裏に全ての本音を隠して微笑み、副隊長の腕を引いた。
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