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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第21章 本心


12号が振り下ろした刀は僕を斬り裂き、鮮血が散った。斬られた。ずっと斬ることだけを磨いてきた僕が、斬られた。

薄く開いた瞳に折れた刀が映る。
まだや、刀はそこにある。掴め、掴め――…伸ばした腕は、そこになかった。僕の右腕…刀を握り続けた手…それが、なかった。

あぁ…兄貴やったら、射撃に戦術を切り替えて、こいつにも勝てたんかな。

積み重ねてきたもんが、崩れて、落ちる。

「諦めろ、宗四郎」「いつか命を落とすことになる」今まで言われてきた、引き金を持たない僕を守る言葉。いつも、忘れることはなかった。窮地に立つ程、鮮明に思い出される。

もうええ。諦めたら楽になる。このまま沈めば、解放される。
深い海の底に落ちていく感覚。

それなのに、なんで…「宗四郎」「宗四郎」と僕を呼ぶ、色んな表情をした君が浮かぶ。温かいその腕が僕を包み込んで、引き上げていく。

「好きや、澪。僕の――最高に愛しい人」

斬られた胸、刀を握る右手はない。君に触れる右手はない。刀を握る、僕の命とも言える腕。せやけど、僕は――僕だけのもんやない。澪が僕の全てで、僕は澪の全て。

嫌や、やめたくない。手放したくない。刀も澪も……嫌や…嫌や――…。
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