第19章 美命
「ごめん、出来たてじゃなくて……」
「僕がなんも言わへんかったんが悪いんや、気にせんくてええ。ほんで澪――目ぇ赤いで。後で冷やしとき」
腫れるでと言う宗四郎の優しさが刺さると共に、少し距離を取られた感覚がした。温めたご飯が乗っているテーブルを挟んで宗四郎と向かい合う。触れたい…ご飯を食べる宗四郎を見て、胸が疼いた。
ご飯を食べ終わり、宗四郎にモンブランを差し出す。少し欠けたモンブラン。
「ごめん、一口食べたけど…」
おおきにと笑って受け取る宗四郎に心臓が跳ねた。あぁ、好きだな…笑った時に見える八重歯も、細くてつり上がった目が弧を描く瞬間も、僅かに揺れる前髪も…全部、全部大好き。
「泣かせたないんやけどな…涙の味がするモンブランは、初めて食うたわ」
小さく零れた呟きを上手く聞き取ることは出来なかったけど、宗四郎は優しい顔をしていた。
私もプリンを食べて、先にお風呂に向かう背中を見つめた。今日は一緒じゃないんだ。全然、触れてくれない。いつもは鬱陶しいくらい触れてくれるのに。謝ったのに戻らない距離が苦しかった。
宗四郎が上がってきて私もお風呂に入る。戻ってくると宗四郎の声が聞こえた。誰かと電話をしているようだ。