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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第4章 指令


ずっと眠れなくてぼんやりと天井を見つめていた。副隊長が少し身動きを取るだけで身体を強ばらせ、息を呑む。

あなたは今、私を誰だと思って触れているのですか、あなたの中で私は今、どのくらいの存在なんですか。苦しくて辛いのに、心臓は早鐘を打ち、触れられている部分が熱を持っている。

このまま偽装結婚を続けるのなら、毎日これに耐えなければいけないのだろうか。矛盾した感情が渦巻く私の内側は、許容量を超えていると訴えるように頭がぼんやりとし始めた。

副隊長は今度は夢を見ているようで、「気持ちええ?」などと微かに呟いている。すぐに顔を背けて目をぎゅっと瞑った。その瞬間、雫が目尻から零れた。

声が漏れないように腕で口を押さえながら、冷たく流れる涙を拭う。逃げ出したいのに出来ない。私に触れている手は優しいのに、口から零れる言葉は私の心を抉る。

「ん…朝霧?泣いてるん?」

私の僅かな身体の震えで目を覚ました彼は、優しく私の腕を取って、大丈夫やよと囁きながら私の手を握ったまま、また寝ようとしている。寝惚けているようだ。

私のことをなんとも思っていないなら、もう優しくして欲しくないのに…その優しさに喜びながらも、傷付いている。

「澪ちゃん、もう寝ようや…夜は寝た方がええ。やないと、そんな風に泣いてまうんやから」

「な、泣いてないです…」

甘く掠れた声で名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
この暗闇で私の涙まで見えるはずはないだろう、そう思い、必死に平静を装った。

「ん、そうなんね…おやすみ」

そう言って頭を撫でられる気持ち良さに目を閉じる。

心臓は未だにドキドキと脈を打っている。それでも頭を撫でる優しい手と、私の名前を優しく呼ぶ声に安心して微睡んでいった。
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