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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第15章 愛縛 〜涙愛〜


有明基地を出るとそのまま家に帰り、朝に準備していた荷物を持って空港へ向かった。何も喋ってくれない。だから私も何も喋らなかった。

飛行機に乗っても、宗四郎さんが話すことはなかった。アヤとのことを喋る気もなければ、私に聞くことも許さなかった。

えっちまでしてるのに、結局私は…それまでの存在なのだろう。都合がいいから。偽りだとしても、夫婦だから。

握った手を離す気がないなら、私の気持ちを知ってるなら…全てを話して欲しい。そう思うのに、私には聞く勇気がなくて、宗四郎さんも口は閉じたまま。

だけど、その口はゆっくり開いた。

「……ごめんな。何言われたん?アヤにはちゃんと言うとく」

何を言うの?私のことは愛してないって?本物の夫婦じゃないって?
こんな状態で街を歩いて演技をするのも、ご両親に挨拶をするのも、出来そうになかった。

言われたことをそのまま言うと、気にせんでと頭を撫でられる。こんなに苦しいのに、正直な心臓が恨めしい。

「宗四郎……さん」

偽りでも妻の私が宗四郎さんと呼んでいるのに、あの人は宗四郎と呼んでいた。私だってそう呼びたいのに…もっと距離を縮めたいのに、これ以上はダメだと、喉が勝手に詰まる。

俯いたまま握られた手を見つめた。どうして…そんなに私を惑わすの?今の関係のままでいたいから?

「泣きたいなら泣いたらええ。アヤに君とは会わんよう言うとくから」

ほらやっぱり、私の気持ちを知ってるんでしょ?あの時言ったことを覚えてるんでしょ?初めて会った時からあなたを見てるって言った時から。

それなのに…私の気持ちを弄ぶようなことをするの?好きなんて、言ってくれないくせに。
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