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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第13章 宵闇 〜恋闇〜


数日が経ち、撤去作業は進んでいる。
休憩になり、私たち同期は飲み物を片手に輪になっていた。きこるんは有明りんかい基地に行ったそうだ。
誰も喋らず、重い空気が漂う。沈黙を破ったのは、お調子者の伊春くん。

「いやぁしっかし、未だに信じらんねぇな。まさかおっさんが怪獣8号だったとは…だってあの、ぷに腹のおっさんだぜ?なぁ、レノ」

日比野さんだったからこそ、私たちは生きている。
信じられないのはわかる。でも私は二度も助けられ、納得もしている。日比野さんじゃなければ、私や伊春くん、市川くんはあの相模原で死んでいただろう。

市川くんは一点を見つめたまま黙っていた。
市川くんが一番、日比野さんと仲が良かった。前職で一緒だったらしい。隊員でも怪獣でもない日比野さんに怪獣から助けてもらって、それからずっと憧れていると、この前聞いた。

「日比野さん、私を怪獣から助けてくれたんです」

あかりんが俯いたまま思い馳せる。

日比野さんはいろんな人を助けてたんだね。失いたくないな。そう思うのに、ただの新人隊員ではどうすることも出来なかった。きこるんは父親である、四ノ宮長官に処分撤回をお願いしに行ったと聞いた。

みんな気持ちは同じだった。日比野さんを失いたくない、それだけが膨れ上がって、実際は何も出来ない。

「決めるのは俺たちじゃない、討伐庁だ」

神楽木くんが淡々と言葉を紡ぐが、彼が仲間思いなのは知っている。
出雲くんもそれに答えて、現実を見ている。

「この事実が公表されれば、世界中がパニックになる。隣の人間が本当は怪獣かもしれないって、常にビクビクしながら暮らすことになるんだからな」

私や市川くんは、一度も言葉を発することは出来なかった。

「こいつはもう、俺たちが口出しするには、大き過ぎる問題なんだ」

夜の甘過ぎる時間から一気に、残酷な現実に引き戻された感覚がしていた。
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