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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第13章 宵闇 〜恋闇〜


頭を撫でられる感覚と、鼻を掠める甘い香りで目が覚めた。私が嗅ぎたくない香り。
仕事じゃなかったの…?

「……おかえりなさい」

「起こしてもうた?ごめんな」

ただいまと呟き、髪にキスをされる。

私が気付くのを知っていながら、その香りをさせて帰ってきた。会ってきたと伝えているのだろうか?それなら、言葉で言ってくれたっていいのに。

どうして会ってるのかわからない。誘いを断ってると言っていたくせに、なんの為に…。
会わないで欲しい。そう思うのに、それを言葉にすることは出来なかった。

「こっちで寝とったんや。君の部屋行ったらいなかったから、どこ行ったんやろ思た」

「ダメだった…?」

ええよと優しく言いながらそっと交わされる口付け。だがそれはすぐに深いものに変わっていった。私とするキスはほとんどいつも、舌を絡ませる深いもの。

それは、身体だけを求めていると言われているようで、苦しい。それなのに、嬉しいとも思ってしまう。

唇を離して舌だけを絡ませると、お互いの熱い吐息が混ざる。
流れてくる唾液を飲み込みながら薄く目を開けると、赤紫と目が合う。目、閉じてよ…。

暗くてちゃんと見えないはずなのに、その瞳は光を放つように存在感を主張していた。

「……寝ててええよ。僕、シャワー浴びてくる」

離れていった舌はそれだけを呟き、寝室から出ていった。
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