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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第3章 重奏


「食い終わったか?」

食べ終わった私を見ては、ふっ…と笑う。まだついとる…と口元を指で拭われた。

距離が縮まっていく感覚に心が震えた。近付けば近付く程、嬉しさと共に苦しさや辛さも高まっていく。

無意識に見せられた保科さんの甘さに、周りの音など何も聞こえず、隊員たちがいることさえ、頭の隅に追いやられる。私の全てがこの人で埋まっていく。

「クリーム、口につけとるなんて、ほんまガキやなぁ。可愛ええ」

ほら、こうやって高まった私の気持ちを落としていく。私は保科さんに"子供"としか思われていない。可愛いと言われて高鳴る胸も、虚しさと絡み合って冷たくなる。

お願いがありますと彼に言葉を投げかける。

「こういうこと、もうしないでください。私は…子供だけど、子供じゃないんです。子供だと思ってるんなら、私に触れないでください…」

もうこれ以上は辛すぎる。勝手に嬉しく思ってるのは私で、辛くなっているのも私。それでも、こんなに距離が近いのは子供だから、なんて辛すぎる。

「そんな怒らんといて。そんな嫌やったん?すまんかった。もうせぇへんから、いつも通りでおってや」

俯いて震える私の頭を撫でて、子供を宥めるような彼に心がぐちゃぐちゃになっていく。

あんなことを言ったのに、保科さんは怒らずに傍いてくれるのか…その残酷な優しさが私の心を抉った。私の気持ち気付いていないのはわかっている。それでももう少し、女として意識して欲しかった。

私の言葉の意味は保科さんには伝わっていなかった。

それからの私たちは適切な距離、とは言えないが、あんなことをされることはなくなった。
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