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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第10章 宵闇 〜初闇〜


眠れないのなら、少し日比野さんに付き合ってもらおうと資料室へ向かう。彼は最近よく、夜遅くまで資料室で勉強をしている、という情報を手に入れた。

でも…来なければよかった。
副隊長がいる。資料室の入り口でスライド式の扉に背中を預けて、中にいる誰かに声をかけているようだ。日比野さんだろうか…。

ひと目見るだけで、あの人を欲してしまうのだ。だから会いたくない…でも会いたい。矛盾した気持ちがぐるぐると回って気持ち悪い。求められない自分が虚しい。

"アヤ"になったら、あの人と一緒にいれるのだろうか。と、変なことを考えてしまう。

資料室の入り口まで来ると、中からダンッという音が聞こえて肩を震わせた。一体、何をしてるんだろう…。

「亜白隊長の隣は譲らへんぞ」

すぐ近くで副隊長の声が聞こえて、どうすることも出来ず、ただしゃがみ込んだ。

副隊長の声だけで心臓が痛い。それに落ち着いていく。今だったら、眠れそう…。

資料室の中からありがとうございますと、日比野さんの声が聞こえた。やっぱり、こんな遅くまで…。

今日は副隊長、基地にいるんだ。"アヤ"と会ってないんだね。いや、もう会った後なのかもしれない。今日は"アヤ"を抱いてきたんだろうな…。

せっかく落ち着いた心が荒れていく。なんでそんなことを考えてしまったんだろう。

「それから――隊員同士、仲良くなるのは程々にしといた方がええ。いつ、誰に何が起きてもおかしくない仕事やからな」

副隊長の声がそこで聞こえなくなると、けたたましい警報音が鳴り響いた。

「言うとる側からやなぁ……行くで。初任務や」

日比野さんに声をかけて、資料室から出てきた副隊長と目が合う。だがすぐにその瞳は私を捉えることをやめた。

今はうだうだ考えていられない。急いで着替えに向かう。ご飯は食べられなかった。
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