第9章 仮契 〜忍契〜
顔を上げて、背中を扉に預けた。
朝か…と思いながら、ボーッと天井を眺める。涙はまだ零れていた。
突然、扉が開き、心臓が止まりかけた。
身体を支える物がなくなり、後ろに倒れていく。頭を打つかと思ったが、その背中は何かに支えられた。
上を見上げれば、副隊長は私を見下ろしていた。特に表情はない。
私を支えていたのは、副隊長の足だった。
「飯、出来る」
慌てて起き上がり俯いて、はい…と頷いた。
涙を拭いてリビングに来るとご飯のいい匂いが鼻を擽って、ぐぅ…とお腹が鳴る。恥ずかしくて、顔が熱くなった。
椅子に座るといきなり目元に濡れたタオルが当たり、冷たくて声が出てしまう。
「冷やしとき」
自分の手でタオルを押さえると、副隊長がキッチンに戻っていく気配がした。
優しさにまた涙が滲む。せっかくタオルを当ててるのに意味がないと、必死に堪えた。
少しするとタオルを取られて、今度は温かいタオルを持たせられる。
軽く目尻に触れられて、ビクッと肩が跳ねる。彼の目は私の目を見ているはずなのに、視線が交わることはない。
離れていく副隊長を目で追って、気付かれる前に温かいタオルで目を隠した。
もっと触れたい、触れられたい。昨日の熱がまだ私を蝕んでいる。伝えたい想いも叶えたい思いもあるのに、私にはもう遠いもののように感じられる。
副隊長が作ってくれた温かいご飯を食べて家を出ると、まだ副隊長は演技をしてくれた。