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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


自室に入って扉に背中を預けながらしゃがみ込む。ごめんなさい、ごめんなさい…と何度も呟いた。

副隊長はずっと私の為に我慢してくれていた。"アヤ"の誘いも私の為に断ってくれていた。それなのに私は、自分から誘って拒んだ。

頬を伝う、温かいはずの雫が冷たく感じる。どうしていつも私は、こんな涙しか流せないんだろう。あの人に教えてもらったのに…温かい涙もあるって。

私は…愛する人に愛されてはいないけど、大事にされている。それも…痛いくらい伝わって来るくらいに、とても。

「宗四郎さん…ごめんなさい。好き……」

好きでごめんなさい…好きになってごめんなさい。我慢させてごめんなさい。

私は謝る為に彼を好きになったんだろうか。『ありがとう』って言えなかった。私を大事にしてくれている彼に、『ありがとう』って言えなかった。

もう、この生活も終わる。好きな人の隣にはいられない。

膝を抱えて、声を押し殺した。彼と重ねた唇が、好きだと叫びたいと震える。

身体中が震えている。心まで震えている。私はあの人を幸せに出来ない。守れない。好きなのに…触れられるだけで嬉しくて、ずっと傍にいたいと思うのに、苦しませることしか出来ない。

膝が濡れてびしょびしょになっても涙は止まらない。触れられた腕や太腿はまだ熱の感覚が残っているのに、冷たくて、肩が震える。
好きな人を苦しませるくらいなら、このまま泡になって消えてしまいたい。

胸を締め付ける後悔に向き合うことが出来ずに、涙ばかりが溢れてくる。

いつも優しく触れてくれる彼の心はきっと、泣いている。愛していなくても、拒まれるのは辛いはず。何故、私ばかりが泣いているんだろう。

膝を抱えて縮こまっていたので、部屋が明るくなっていたのには気付かなかった。
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