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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第3章 重奏


電車を降りてどこかへ向かう彼の背中を見つめながらついていく。私のこの視線も熱い想いも、何も知らないんだろうな。
知らないままでいて欲しいと願いながら、気付いて欲しいとも思う。

突然振り返った保科さんは私の手を引いて隣に来させる。

「あんな、今から言うんは内緒やで?」

なんだろうと思い、彼を見つめる。

「僕、近いうち…副隊長なんねん」

「……え?」

内緒やで〜と低い声から普段の調子に戻った彼は、私の手を引いて、こっちやとお店の中に入っていく。ケーキ屋さんのようだ。
驚く暇も与えてくれないんですか…。

保科さんはまるで怪獣を前にした時みたいに標的を定め、柘榴石のような瞳をギラつかせる。

モンブランください、と迷いなく店員さんに声をかけていて、思わず保科さん?と問いかけてしまった。なんやとモンブランを凝視したまま答えられる。

「その目って…モンブランでも開くんですか?」

「当たり前やろ、モンブランに失礼やん。いつも開いとるけど」

はぁ…と呆気にとられて曖昧な返事しか出来なかった。モンブランに失礼ってどういうことですか。

はよ選んでと言われ、咄嗟にモンブランと答えてしまう。頭の中はすでに、モンブランと保科さんの目のことでいっぱいだ。モンブランは好きなので別にいいのだが…。
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