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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


訓練を終えて基地を出る。副隊長は今日も帰りが遅い。次第に重くなる心。副隊長は私に話す必要はないと思っている。隠したいとかではなくて…だから、余計思い知らされるのだ。少しも私に気持ちはないのだと。

とぼとぼと帰路を辿る。そして見つけてしまうのだ。副隊長とベタベタと彼に触れる女の人を。

やだ…そこは私のもの……でもないのに、嫉妬と独占欲が湧いてくる。

気付かれないように近付いて、物陰に隠れた。微かに声が聞こえた。

「毎日、宗四郎に会えて嬉しい!またしようね」

ニコニコと話す女性の声がはっきり聞こえた。ハキハキとしているが、可愛らしい声。少し明るい茶髪を後ろで高く一つにまとめていた。

「お前ほんまに…こっち来るんやめろ言うたやろ。周りにアヤの存在バレたらやばいねんて」

今、"アヤ"って言った。

気付けば私は2人の声がはっきり聞こえるところまで来ていて、慌てて通行人を装って通り過ぎようとしたが、さすがに無理だった。

手首を掴まれて振り返ると、副隊長が私を見ていた。表情を変えない彼に苦しくなる。

「澪ちゃん……一緒に帰ろか?」

周りを気にして彼は私に優しく接する。"アヤ"の手を振り払って、私の手を握った。甘い香水の匂いが漂ってくる。

なんで私の手を掴んだんだろう。その人といたいなら、私のことは無視すればよかったのに。

ちらっと"アヤ"を見て、第1部隊の隊員なんだろうな、と思った。隊服を着ているので、防衛隊員なのは確か。
そしてさっき副隊長は、こっちに来るのをやめろと言った。第3部隊の隊員はほぼ全員把握している。この人は、私は知らない。

「あ、えっと……私…寄りたいとこあるので…だから、その…離して……」

その手で…別の人に触れていた手で私に触らないで。その香水の匂いを嗅がせないで。

「僕も行く」

その声は当然のように優しくて…だからこそ、残酷に聞こえた。

視界が歪むが必死に堪えて、ぶんぶんと首を振った。

"アヤ"が宗四郎!と言って腕を引いている。振りほどいてよ…そう思うのに、私にはそんな言葉は許されていない。

だから私が副隊長の手を振りほどいて逃げた。そんなことしたくないのに、あの場にいるのが耐えられなかった。
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