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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


ふと、視界に入った副隊長の唇を見つめる。天ぷらの油で光っていて、目を惹かれてしまう。

「宗四郎さん……」

「ん?なん…っ!…今度は葱かいっ!」

見つめていたのがバレないように…副隊長が口を開けた瞬間、葱を塊のまま口に放り込んだ。

葱を咀嚼して飲み込んだ副隊長は、ジッと自身の手を見つめていた。どうしたんだろうと、私のその手を見ると、手の甲にうどんのつゆが垂れていた。

「……舐めて。君のせいで垂れたんやで?」

手を差し出してきて、片目を妖しく開いた。赤紫の瞳に見つめられて息を呑む。

人前でこんな…いや、人前だからこそ、か。ちょっとやり過ぎな気もするけど、あまり深くは考えなかった。だって、副隊長がそう言っているから。

震える舌を出して、副隊長の手の甲で光るうどんのつゆを舐め取った。心臓が痛い程、早く動いている。

副隊長は仕返しを出来て嬉しそうに笑っていた。
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