第9章 仮契 〜忍契〜
「いやぁでも…朝霧、よかったな」
何が?と言うように伊春くんに向けて首を傾げた。
「高専時代に俺らが亜白隊長の話してる時あっただろ?そん時お前、"一番かっこよかったのは保科さんだ"とか言ってなかったか?保科副隊長のことだったんだろ?」
な、何故それを覚えている。そして本人の前でその話をしないで欲しい。その頃からすでに好きなのがバレてしまう…恥ずかしい。
すぐ隣から、へぇ〜…という声と目線を感じる。恥ずかしくて見ることは出来なかった。
「いつの話なんや?」
わぁ…いつかなんて聞かないで…。
「俺らが高専入って間もない頃っすかね」
私が黙っていると伊春くんがすらすらと答えていく。
もうやめて…。
「……そ、宗四郎さんが打ち合わせで来てた時のことです…」
ボソボソと言葉を紡ぐと、隣で頷く気配がした。
「あぁ…通信で僕のことめっちゃ褒めてくれた時か」
柔らかく優しい声が聞こえてきたが、どこか揶揄う雰囲気を漂わせている。
そん時から意識しとったかもしれんと笑う副隊長に、私はただ騙されていたい。
僅かに頷いて、目線は繋がれている手を見ていた。