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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


午前の訓練が終わり、汗を吹きながら同期たちと食堂へ向かう。

「朝霧、本当に保科副隊長と結婚したのか?」

いつの間にそんな関係なってたんだ、と隣を歩く伊春くんに話しかけられる。

私たちの関係は偽り。籍を入れたわけでもない。訓練校から仲良くしていた伊春くんに嘘をつくのは心苦しい。だけど、これは好きな人を守る為。

「うん。まだ事実婚だけどね……っ!…副隊長!?」

いきなり肩を抱いて後ろに引き寄せられ、振り向くと副隊長の横顔が見えた。

「人妻狙っとるんか?僕のやで」

演技だとわかっていながらも、心臓は早鐘を奏で始める。怖いと思っていても、ここではそれを出してはいけない。
副隊長も、怖がらせていると知りながらしている。

伊春くんと彼の近くにいた市川くんは顔を赤くしながらも、副隊長の本気っぽい牽制の視線で怯えていた。
周りにいた同期たちもちらちらと見てくる。

「な、馴れ初めってどんな感じなんすか?2人の…」

伊春くんは萎縮しながら副隊長に聞いていた。

「付き合うたんは最近やで。スピード婚言うやつやな。女の人らがな…やから、安心させる為に結婚したんや。澪ちゃんのことはよう知っとるし、この子なら結婚したい思てな」

アドリブ…馴れ初め等の設定は話し合っていなかった。
ただ…嘘に本当を混ぜて話す彼は、本当にすごいなと思った。副隊長を狙う女の人たちが原因で私たちは偽装結婚をしているのだから。

自分の顔が熱くなっていくのがわかる。嘘だとわかっているのに、どうしてこんなにも、心が揺さぶられるのだろう。

「ほら…この顔も僕がさせとる。他の男が付け入る隙なんてないで〜」

肩にあった手がゆっくりと下りていき、私の指を絡め取った。温もりが肩から手へと移動した。
離れないその温かさが、何よりも私を安心させてくれた。

睡眠不足や栄養が足りていない身体で訓練をしていた。疲れた身体や心を優しく解されていく。もっと触れて欲しい。

握られた指先はほんの少しの恐怖で震えていた。
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