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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


カウンターキッチンの台に肘をついて、ご飯を作る副隊長をジッと見つめた。離れたくないけど、邪魔はしたくない。

時々目が合うと優しく微笑んでくれた。たまに顔を赤くしたりする仕草が、とてつもなく愛おしい。私を優しく包み込む手で、私の為にご飯を作ってくれている。

たまに目が合うと、彼の癖なのか、頬を指でそっと撫でてくれる。口元は八重歯を少し光らせて笑っていた。

カウンターの台の上で少しずつ指を近付けていった。ほんの少し目を開く副隊長の目線はその指を時々捉えている。それでも気にせずにゆっくりと距離を縮めていく。

ほとんど、無意識に近かったと思う。この人に触れたい…。

「そない腹減ったんか?食い意地張れるようなっとるな」

少しだけ顔を出していた八重歯が、完全に見えた。

「違いますよ。ただ、嬉しくて…宗四郎さんがかっこよくて…」

副隊長は目を逸らして軽くはにかむ。見つめていると、少しずつ耳や頬が赤くなっていった。その様子をうっとりしながら見つめていた。もっと、私に調子を狂わせれていたらいい。

可愛いですねと微笑んだら、調子乗るなと怒られた。

「昨日から君、どんだけやばいこと言ってるかわかっとる?ほんまに心臓に悪いわぁ…」

全部言いたかったことですよと微笑んで、少しずつ近付けていた指を、副隊長の手に伸ばした。だけどやっぱり怖くて、握ろうとした副隊長の手からシュッと引っ込めて逃げた。

残された副隊長の手だけが、宙に浮いたまま残っていた。

「……その引っ込め方はさすがに傷付いたわぁ」

軽く笑って言っているが、弧を描く口元は少し引き攣っていて、寂しさが滲んでいた。
副隊長はご飯を作っていた手を止めて、カウンターの上に手の平を上に向けて乗せた。

「……僕の手、寂しい言うとるわ」

その声に照れを乗せながら、不貞腐れている。横目で私の様子を見ながら少し唇を尖らせて、頬はもっと赤くなっていた。

この人はこんな顔もするんだ…それを私がさせている。

嬉しさと優越感で胸がぎゅっとなった。

「調子、狂わせんといて……はよ握ってや」

私に甘えてくれているのだと思うと、どうしようもなく愛しくて…その手に手を乗せて軽く握った。

「可愛いですね」
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